2025.7.2
デジタルファブリケーションとは?|多品種小ロットに対応する次世代モノづくりの基本知識
製造業では今、多品種小ロットや短納期対応といった課題への対応力が問われています。こうした中、従来の生産体制では難しかった柔軟な製造を実現する手法としてデジタルファブリケーションが注目されています。本記事ではその基本概念から、適した製作内容、注意点までを網羅的に解説します。

デジタルファブリケーションを活用した製作をご検討の方は、KUWABARA 3D PRINTのサービスご利用の流れもあわせてご覧ください。
https://www.kuwabara-3d.com/service/
目次
1. デジタルファブリケーションとは?

デジタルファブリケーションは、3Dデータを基に設計から加工までを一貫して行うデジタル主導の製造手法です。従来の金型依存型のものづくりとは異なるアプローチで、試作や少量生産における柔軟性を提供します。ここでは、その基本定義と従来工法との違いを整理します。
1-1. 定義と従来の製造法との違い
デジタルファブリケーションとは、コンピュータで作成されたデジタルデータを基に3DプリンターやCNC加工機などのデジタル工作機械で実際のモノを製作する技術体系を指します。レーザー加工や水圧切断などもその一部に含まれることがあります。
従来の加工法では金型の製作や手作業の工程が不可欠であり、設計変更や小ロット対応にはコストと時間の制約がありました。デジタルファブリケーションは設計データさえあれば、試作や小ロットでも即座に対応でき、工程の自由度やスピード、対応力の高さが大きな特長です。
1-2. 代表的なデジタルファブリケーション機器
デジタルファブリケーションでは、設計・制御・加工といった各工程がデジタルでつながることにより、従来よりも効率的かつ柔軟な製造プロセスが実現されます。これを支えているのが、さまざまなデジタル工作機器や制御装置です。これらの機器は、それぞれ特化した機能を持ちつつも、複数を組み合わせて一連の製造工程を構成することも可能です。また、加工だけでなく、センシングや自動化、試作、教育用途まで活用範囲が広がっている点も特徴です。
デジタルファブリケーションで活用される主な機器やシステムは以下のとおりです。

これらの機器は単独でも機能しますが、設計・制御・造形が連動することでプロトタイピングやパーソナライズ製作、教育用途に至るまで、柔軟なモノづくりが可能となります。
1-3. なぜ今、注目されているのか
背景には製造現場の多様化と変化スピードの加速があります。製品ライフサイクルの短期化、個別ニーズの増加、サプライチェーンの不確実性などが柔軟な生産体制への要求を高めています。 デジタルファブリケーションは、必要なときに、必要なものを、必要な分だけ作るという理想に近づく手段として、DX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈でも注目されています。特に以下のような用途において強みを発揮します。
- 多品種小ロット生産
- 短納期の試作対応
- 保守部品の製作
- 現場主導の課題解決型モノづくり
総務省は平成28年の調査報告の中で、デジタルファブリケーションを「製造業における就業形態の革新をもたらす可能性を持つ技術」と位置づけており、個人によるものづくり参画や新しい働き方を支える仕組みとして評価していました。
一方で、当時の調査では日本の就労者の約7割がこの技術を「ほとんど聞いたことがない」と回答しており、海外と比較して認知度にギャップがあることも指摘されていました。
【出典】平成28年版 情報通信白書|デジタルファブリケーション – 総務省
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc141330.html
2. デジタルファブリケーションが可能にする技術的アプローチ

デジタルファブリケーションは、単なる加工手段としての利便性だけでなく、設計から製造までを一貫してデジタルでつなぐ新しいモノづくりのあり方を提示しています。このセクションでは、そうしたデジタル起点の製造プロセス、技術の分類、そして従来工法との融合という観点からデジタルファブリケーションの技術的な特長を整理して解説します。
2-1. デジタルデータを起点とした製造プロセス
デジタルファブリケーションの最大の特徴は、設計から製作までがすべてデジタルデータによって制御されている点です。3DCADで作成した形状データは、スライサーやCAMソフトなどで加工データに変換され、機械へと送信されて出力・切削・加工が行われます。データがそのまま「モノづくりの命令」として機能するため、人的ミスやアナログ変換による誤差を最小限に抑えることができます。 また、一度作成されたデータは複製・再加工・共有が容易であり、遠隔地での製作やクラウド連携による生産体制の構築も可能です。
2-2. アディティブ・サブトラクティブ・フォーミングの技術分類
デジタルファブリケーションで用いられる加工技術は、その原理により大きく3つに分類されます。それぞれの技術は、目的や素材、製品形状に応じて使い分けることで、より最適な製造が実現できます。以下に各分類の概要を示します。
- アディティブ・マニュファクチャリング(AM)
材料を積み重ねて形状を作る「加算型」製造 (例:3Dプリンティング) - サブトラクティブ・マニュファクチャリング
材料を削って形を作る「減算型」製造 (例:CNC加工) - フォーミング(成形・変形)技術
材料を変形・圧縮して成形する加工法 (例:デジタル刺繍ミシン、板金曲げ、プレス加工)
2-3. 従来工法との統合によるハイブリッド活用も進行中
デジタルファブリケーションが多様な製造ニーズに対応できる背景には、他の製造技術との組み合わせが可能であるという特長もあります。実際の製造現場では、デジタル機器だけで完結するのではなく、既存の切削・成形技術や人の手による仕上げ工程と組み合わせるケースが一般的です。
例として、以下のようなハイブリッド活用が進んでいます。
- 3Dプリントで造形した部品に、CNC加工で高精度な穴あけを行う
- レーザーカットしたパーツを組み立てて最終製品とする
- アナログな職人技による研磨や塗装を追加する
このように、デジタルファブリケーションは他工法との相乗効果を生み出す中核技術として、ますます実用性を高めています。
3. どんな製作に向いているか

デジタルファブリケーションの強みは、従来の量産型製造では対応しづらかったニーズに応えられる点にあります。たとえば「今すぐ」「少量だけ」「特殊な形で」といった要求に対して、金型不要で短納期対応が可能なため、柔軟性の高い生産が実現できます。このセクションでは、主に3Dプリンターと3Dスキャナーを中心に、どのような用途や場面に適しているかを具体的に紹介します。
3-1. 設計データ活用による小ロット・試作対応
少量生産や試作において、従来の金型製作はコストや時間の負担が大きくなりがちです。デジタルファブリケーションでは設計データを直接もとに加工できるため、1点からの製作が容易で、製品開発サイクルの短縮にも寄与します。多品種・短納期での設計検証や仕様確認にも最適です。

< あわせてご確認ください >
小ロット生産のメリットとデメリット解消法
https://www.kuwabara-3d.com/column/c004/
3-2. 複雑形状・統合設計で部品点数を削減
3Dプリンターでは中空構造やサポート材を活用することで、従来は分割せざるを得なかった複雑形状も一体で造形でき、部品点数削減や組立工程の簡略化につながります。

< あわせてご確認ください >
部品点数削減の効果と方法|コスト削減・工程簡略化を実現する設計戦略
https://www.kuwabara-3d.com/column/c009/
3-3. 金型レス対応による短納期・コスト最適化
従来工法では金型が必要であったような形状も金型不要で加工データをもとにすぐに製作に移れるため、初期費用を抑えつつスピーディな製作が可能です。設計変更への対応力も高く、都度の変更が発生しやすいプロジェクトや試作品でもロスを最小限に抑えられます。

< あわせてご確認ください >
多品種少量生産の未来 | デジタル製造と最新技術の活用法
https://www.kuwabara-3d.com/column/c010/
3-4. 過剰在庫を持たずに済むオンデマンド製作
必要なときに必要な数量だけを製作するオンデマンド生産は、保管コストや廃棄リスクを抑える手段として有効です。3Dデータがあれば、追加製作や仕様変更にも柔軟に対応できます。

< あわせてご確認ください >
小ロット生産のメリットとデメリット解消法
https://www.kuwabara-3d.com/column/c004/
3-5. 保守部品・交換パーツの再現・製作にも有効
既存部品の図面が残っていない場合や生産終了品の再現には3Dスキャナーと3Dプリンターの組み合わせが有効です。破損品や現物をもとにデジタル化し、再設計・再製作が可能です。これにより、保守対応の柔軟性やダウンタイム短縮に貢献します。

< あわせてご確認ください >
生産終了部品が手に入らない?廃盤部品の調達・再製作・代替策を徹底解説!
https://www.kuwabara-3d.com/column/c006/
4. 製作を依頼する際のチェックポイント

デジタルファブリケーションを活用する際は、設計自由度だけでなく、依頼時の技術条件や対応範囲の確認も重要です。ここでは、3Dデータの取り扱いから素材の選定、納期の目安まで、依頼時に意識しておきたい基本的なチェックポイントを紹介します。
4-1. 対応可能な材質と形状
デジタルファブリケーションでは、使用する機器や技術によって対応できる素材や形状が異なります。たとえばFDM/FFF(材料押出)方式の3DプリンターであればABSやPLAが中心ですが、SLA(光造形)方式ならレジン、SLS(粉末焼結)方式ならナイロンや金属なども使用可能です。また、サポート材の有無や積層方向により、再現性が高い形状・苦手な形状もあるため、事前に材質と形状の適合性を確認しておくことが重要です。
4-2. 使用できるデータ形式と入稿方法
一般的には、STL・STEP・IGES・OBJといった3Dデータ形式に対応しており、作成元のCADソフトに応じたファイル変換が必要となります。また、スキャンデータからの再設計や、3Dデータ修正の対応可否も事前に確認しましょう。寸法精度が必要な場合には、図面の併用や公差指示が推奨されます。
4-3. 納期・費用・事前相談の流れ
少量かつ単純形状であれば短納期にも対応しやすいのがデジタルファブリケーションの強みですが、形状が複雑であったり複数の工程が必要な場合はリードタイムが延びることもあります。見積依頼時には、納品希望日・使用目的・必要数量・希望素材などをできるだけ明確に伝えることで、スムーズな対応が可能になります。
費用は「加工コスト」だけでなく「データ準備・後処理・仕上げ」なども含まれるため、トータルでの確認が必要です。
5. 依頼時に注意すべき法的・品質上のポイント

デジタルファブリケーションによる製作を外注する場合、技術的な観点だけでなく、法的リスクや品質面での認識も重要です。特に設計データの権利関係や製造物責任(PL法)、保証の範囲などについては、トラブルを未然に防ぐために整理が必要です。このセクションでは、依頼者として押さえておきたい法的・品質的観点を解説します。
5-1. 著作権や知的財産に関わるデータの取り扱い
提供する3Dデータやスキャンデータが第三者の著作物や意匠権に抵触していないかどうかは、依頼主側の責任で確認する必要があります。特にキャラクターやブランドロゴ、既存製品の模倣などは、意図せず著作権や意匠権を侵害する可能性があります。自社開発のデータであっても、他社権利との関係を整理したうえで依頼するのが望ましいです。
5-2. 製造物責任と仕様確認の重要性
3DプリントやCNC加工で製作した部品が機械に組み込まれたり、実際の使用環境で破損した場合、その責任の所在を明確にしておくことが重要です。
特に「設計を依頼元が行い、製作を外部に委託」する場合、加工精度や材料の特性による性能差などが生じる可能性もあります。図面や仕様書による事前の取り決めが、後のリスク回避につながります。

5-3. 品質保証の範囲と事前の合意事項について
デジタルファブリケーションで製作された部品は、従来の量産品と比べて標準的な品質保証の範囲が異なるケースがあります。試作品や一点もの、検証用途での製作では、あらかじめ「品質保証対象外」であることを明示されることも一般的です。寸法精度、外観、強度などについても、事前にどの範囲まで対応できるかをすり合わせておくことが重要です。
6. デジタルファブリケーションを活用する際の注意点

デジタルファブリケーションは、従来の製造工程では実現が難しかった柔軟な対応やスピード感のあるものづくりを可能にします。しかし、その革新性ゆえに誤解や過度な期待が先行してしまうことも少なくありません。特に試作や少量生産には強みを持つ反面、すべての用途や品質要求に万能に対応できるわけではないという点に注意が必要です。
このセクションでは、よくある誤解や導入時に生じやすい課題を整理し、活用の際に留意しておきたいポイントを解説します。
6-1. 加工精度や表面仕上げの限界を理解する
デジタルファブリケーション、とりわけ3Dプリントやレーザー加工は柔軟性に優れた手法ですが、必ずしも従来の切削加工や射出成形と同じ精度や表面品質が得られるとは限りません。例えばFDM/FFF方式では積層の段差や造形方向による強度差が生じやすく、SLA方式でも表面にレジン独特の仕上がりが残る場合があります。
用途によってはこれらが問題にならないこともありますが、部品同士の嵌合や精密な組立が求められる場合には注意が必要です。公差管理が必要な製品には、事前の試作や仕上げ工程(研磨・切削など)を前提とした設計が重要です。
3Dプリントやレーザー加工は便利な反面、加工精度や表面の滑らかさに限界があります。用途によっては、寸法精度のばらつきや積層痕が問題となるケースもあります。必要に応じて後加工や研磨処理を組み合わせる前提で検討することが現実的です。
6-2. 使用環境や強度要件に応じた素材選定が必要
デジタルファブリケーションで使用できる素材は多様ですが、すべてが高強度や耐熱性に優れているわけではありません。また、同じ素材名でも、加工方式によって強度・耐久性・表面性状が異なる場合があります。
たとえば、3DプリントにおいてFDM/FFF方式で出力したABSは方向によって強度が変わり、SLS方式のナイロンは一体造形には向いていても寸法精度に若干のバラつきが出ることがあります。実際の使用環境(温度・湿度・応力)や用途(荷重支持、滑走部など)をもとに素材と加工方式を選定することが不可欠です。
デジタルファブリケーションでは使用できる素材に限りがあるほか、同じ素材でも製法によって物性が変化することがあります。高温環境や負荷のかかる用途では、単なる「見た目」での選定ではなく、実際の使用条件を踏まえて素材と加工方法を選ぶ必要があります。
6-3. 大量生産・低単価化には不向きなケースもある
デジタルファブリケーションは「多品種小ロット」「設計変更の柔軟性」には非常に強みを持ちますが、1,000個以上の大量生産や製品単価の引き下げといった目的には必ずしも適していません。加工時間や材料コスト、後処理工程がボリュームに比例して増大するため、一定数を超えると金型成形やプレス加工の方がコスト・納期ともに有利になる場合があります。
また、材料ロスや出力ミスによる再製作の可能性も加味する必要があります。費用対効果や品質面で最適な加工手段を選ぶためには、数量・品質要件・納期の3要素を基準に使い分けを検討する視点が欠かせません。
少量・多品種には強いデジタルファブリケーションですが、大量生産や1個あたりの単価を極限まで下げたい用途には必ずしも最適とは限りません。金型成形などの従来工法に比べて製造コストが割高になる場面もあり、製品の性質と数量に応じた適切な手段の選定が重要です。
7. まとめ|デジタルファブリケーションの可能性と活用のご相談について
本記事では、デジタルファブリケーションの基本概念から、活用に適した製作内容、技術的な背景、注意点までを幅広く解説してきました。多品種小ロット、複雑形状、短納期対応といったニーズに対し、従来の製造方法では対応が難しかった領域でも、デジタルファブリケーションは確かな選択肢となります。
ただし、技術的な特性や限界、品質保証・法的リスクなども踏まえた上で、どのような場面に最適かを正しく見極めることが重要です。特に、3Dプリンターや3Dスキャナーのようなツールは、使い方次第で設計の自由度を広げるだけでなく、部品供給や保守の在り方そのものを変える可能性も秘めています。
また、設計から製造までを一貫してデジタルでつなぐという点において、デジタルファブリケーションはスマートファクトリーや製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)との親和性も高い技術です。Industry 4.0の文脈では、生産性向上・自動化・リードタイム短縮といった課題解決の一環として導入が進んでおり、今後ますますその役割は広がっていくと考えられます。
弊社では、デジタルファブリケーションを活用した製作事例や相談実績も多数ございます。具体的な事例については、以下の制作事例ページをご参照ください。課題解決をお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

弊社3Dプリントサービスの制作事例はこちら
https://www.kuwabara-3d.com/works/

右下部のバナーより、3Dデータ不要での簡易見積りにも対応しておりますので、是非ご活用ください。
https://www.kuwabara-3d.com/contact/