3Dプリンターの活用が広がる中で、「造形したものの、表面の仕上がりがイメージと違う」と感じたことはありませんか?特に、試作品や最終製品として活用する場合、表面の美しさや質感は部品の価値を大きく左右します。この記事では、3Dプリント造形物の品質を飛躍的に高める「表面処理」に焦点を当て、その重要性から具体的な方法、注意点までを分かりやすく解説します。

サムネイル_サービス

表面処理は、方法や材料によって大きく仕上がりが変わるため、「自分のケースにはどれが最適か判断が難しい」と感じる方も多いはずです。
弊社では、3Dプリント造形から表面処理まで一貫対応可能で、ご要望に応じた加工方法をご提案しています。サービスの流れは、以下のページでご確認いただけます。

https://www.kuwabara-3d.com/service

1. 3Dプリントにおける表面処理の重要性とは?

考えるイメージ

3Dプリンターは、一層ずつ材料を積み重ねて立体物を造形する技術です。この製造方法の特性上、どうしても避けられない課題が存在します。それが、表面処理によって解決すべき「積層痕」や「表面の粗さ」です。

1-1. 課題となる積層痕と表面の粗さ

3Dプリントされた造形物の表面には、材料を積み重ねた跡が微細な段差、いわゆる「積層痕」として現れます。この積層痕は、特に曲面や傾斜部分で目立ちやすく、製品の外観品質を損なう主な原因となります。また、造形方式によっては表面がザラザラとした質感になることもあり、そのままでは顧客へのプレゼンテーションや最終製品への組み込みが難しい場合があります。

1-2. 表面処理がもたらす品質向上効果

表面処理を適切に行うことで、見た目の美しさだけでなく、機能面でも多くのメリットが得られます。

表面処理がもたらす主な品質向上効果

このように、表面処理は3Dプリント造形物の性能や品質をより高め、用途の幅を広げるうえで有効な手段です。

2. 3Dプリント表面処理の基本的な流れと5つの方法

修理・工事業者、技術者イメージ

表面処理には様々な方法があり、目的や材料に応じて使い分けることが重要です。ここでは、代表的な5つの方法を基本的な流れに沿って解説します。

方法1. サポート材の除去とバリ取り

造形が完了したら、まず行うのがサポート材の除去です。オーバーハング形状(宙に浮いた部分)などを支えるために付けられたサポート材を、ニッパーやカッター、手で丁寧に取り除きます。この時、本体を傷つけないように注意深く作業することが肝心です。
除去した跡や、造形中に発生した微細なバリが残っている場合は、デザインナイフやヤスリで慎重に削り取ります。この下地処理が、後の工程の仕上がりを大きく左右します。
また、造形前の段階でスライサー設定(サポート密度・接触面積・インターフェース層など)を調整することで、除去痕を最小限に抑えたり、取り外しやすさを向上させることも可能です。

方法2. 研磨(サンディング)による平滑化

積層痕を除去し、表面を滑らかにする最も基本的な方法が研磨(サンディング)です。サンドペーパーや耐水ペーパーを使い、物理的に表面を削っていきます。初めは粗い番手(#240~#400程度)で全体の凹凸を取り、徐々に細かい番手(#800→#1500→#2000)に上げていくことで、驚くほど滑らかな表面が得られます。特にPLA樹脂などは熱に弱いため、水をつけながら研磨する「水研ぎ」を行うと、摩擦熱による変形を防ぎ、よりきれいに仕上げることができます。

方法3. 化学処理による表面溶解

ABS樹脂のような特定のプラスチック材料には、化学溶剤を使った表面処理が有効です。代表的なのが、アセトン蒸気を利用する方法です。密閉容器内でアセトンを気化させ、その蒸気に造形物を晒すことで、表面がわずかに溶解し、積層痕が消えて光沢のある滑らかな仕上がりになります。短時間で複雑な形状も均一に処理できるメリットがありますが、溶剤の取り扱いには換気など細心の注意が必要です。また、寸法が変化する可能性も考慮しなければなりません。近年では、より安全で精密な制御が可能な専用のヴェイパースムージング装置も登場しています。

方法4. 塗装(コーティング)による仕上げ

研磨などで下地を整えた後、塗装を行うことで、見た目の美しさをさらに高め、表面を保護することができます。スプレー缶やエアブラシを使い、まず下地となる「プライマー(サーフェイサー)」を塗布することで、細かな傷を埋め、塗料の密着性を高めます。その後、好みの色のラッカースプレーなどで本塗装を行います。最後にクリアコートを吹き付ければ、光沢感の調整と塗膜の保護ができます。塗装は、質感の表現や耐候性の向上に非常に効果的な手法です。

3Dプリントの塗装方法を徹底解説|初心者でも失敗しない仕上げのコツとは?

塗装の手順やおすすめの道具、素材別の注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。

3Dプリントの塗装方法を徹底解説|初心者でも失敗しない仕上げのコツとは?
https://www.kuwabara-3d.com/column/c019/

方法5. ブラスト処理による均一な梨地加工

ブラスト処理は、ガラスビーズや樹脂などの微細なメディア(研磨材)を造形物に高圧で吹き付け、表面を研磨する方法です。この処理により、積層痕が目立たなくなり、均一でマットな質感(梨地)の仕上がりが得られます。手作業の研磨が難しい複雑な形状や、内部構造の表面にもアプローチできるのが大きなメリットです。また、材料によっては表面層が改質され、強度が向上する効果も報告されています。

3. 【材料・方式別】最適な表面処理の選び方

悩むイメージ

3Dプリンターの造形方式や使用する材料によって、表面の状態や特性は異なります。そのため、それぞれに適した表面処理を選ぶことが重要です。

3-1. FDM/FFF(熱溶解積層)方式におすすめの処理

FDM/FFF方式は積層痕が目立ちやすいため、研磨(サンディング)が基本となります。PLAやPETGは研磨や塗装が一般的です。ABSやASAは、研磨に加えてアセトン蒸気による化学処理も非常に有効で、滑らかな光沢仕上げが可能です。

FDM/FFF方式における材料別のおすすめ表面処理

3-2. 光造形(SLA/DLP)方式におすすめの処理

光造形方式は、もともと表面が滑らかで積層痕が目立ちにくいのが特徴です。そのため、後処理はサポート材の除去と、必要に応じた部分的な研磨が中心となります。より高い透明度や光沢を求める場合は、細かい番手での丁寧な研磨の後に、クリアスプレーでコーティングすると効果的です。二次硬化の前に処理を行うか、後に行うかは、使用するレジンの種類や目的によって調整します。

光造形方式における工程別の表面処理タイミング

3-3. 金属3Dプリンターの場合

金属3Dプリンターで造形した部品は、多くの場合、サポート除去後にブラスト処理やバレル研磨、切削加工といった後加工が施され、最終的な寸法精度と表面品質が確保されます。これらは専門的な設備を要しますが、金属ならではの強度と精度を実現するためには不可欠な工程です。

4. 表面処理を行う際の注意点

注意イメージ

表面処理は品質を向上させる一方で、いくつかの注意点があります。安全かつ効果的に作業を進めるために、以下のポイントを必ず守ってください。

4-1. 安全な作業環境の確保

化学処理でアセトンなどの有機溶剤を使用する場合は、火気厳禁はもちろんのこと、十分な換気設備のある場所で作業し、防毒マスクや保護手袋、保護メガネを必ず着用してください。また、研磨やブラスト処理で発生する粉塵を吸い込まないよう、防塵マスクの使用も重要です。

4-2. 材料の特性を理解する

3Dプリントに使用される樹脂には、それぞれ異なる化学的・物理的特性があります。例えば、PLAは熱に弱い、ABSはアセトンに溶ける、といった特性です。使用する材料が、行う表面処理に対してどのような反応を示すかを事前に理解しておくことで、変形や溶解といった失敗を防ぐことができます。

4-3. 寸法精度への影響を考慮する

研磨や化学処理は、材料の表面を削ったり溶かしたりする加工です。つまり、厳密には造形物の寸法がわずかに変化します。特に精密な嵌め合いが必要な部品の場合は、処理による寸法変化量を考慮して設計を行うか、寸法に影響を与えない処理方法を選択する必要があります。

【参考文献】樹脂3Dプリンタ造形物の表面仕上げ技術の開発(髙岩 徳寿・内藤 恭平)
https://iri.pref.tochigi.lg.jp/content/files/reports/2314a.pdf

5. まとめ

3Dプリントにおける表面処理は、単なる「仕上げ」作業ではなく、造形物の外観品質、強度、機能性を決定づける重要な工程です。サポート材の除去から始まり、研磨、化学処理、塗装といった手法を適切に組み合わせることで、造形物の価値を大きく高めることができます。本記事で紹介した方法と注意点を参考に、ぜひワンランク上のものづくりに挑戦してください。

お問い合わせ

「自社の部品にも対応できるか?」「まずは相談だけでもしてみたい」とお考えの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
図面がない状態や、素材選定に迷っている場合でも、現物や目的に応じてご提案可能です。

https://www.kuwabara-3d.com/contact/