2025.10.16
3Dプリンターでシリコン部品を作る方法|造形方式・代替材料・活用事例を徹底解説
3Dプリンター技術の進化により、これまで困難とされてきたシリコン材料の造形が現実のものとなりつつあります。従来の金型による製造では時間とコストが大きな課題でしたが、3Dプリンターを活用することで、複雑な形状の試作品やカスタム部品を迅速かつ低コストで製作できる可能性が広がっています。本記事では、3Dプリンターでシリコンを造形する具体的な方法、そのメリット・デメリット、そして実際の活用事例までを詳しく解説します。

当社が提供する3Dプリントサービスの詳細は、[サービス紹介ページ]からご覧いただけます。
目次
1. 3Dプリンターでシリコンの造形は可能か?

結論として、3Dプリンターによるシリコン部品の造形は可能です。かつては専用の高額装置でしか実現できず、一部の大手メーカーや研究機関に限られていました。
しかし現在は、純粋なシリコンを直接積層する方式に加え、3Dプリントした型にシリコンを注型する方法、さらにはシリコンライクな代替材料での造形といった複数のアプローチが登場し、利用のハードルが下がりつつあります。
シリコンは柔軟性・耐熱性・生体適合性に優れるため、医療、自動車、コンシューマ製品など多岐にわたる分野で需要が高まっています。従来の金型成形に比べ、3Dプリンターを用いれば短期間で複雑な形状の試作が可能となり、設計の自由度を活かした製品開発に直結します。 まだ発展途上の分野ではありますが、今後は利用できるシリコン材料の種類や対応するプリンターの拡充が期待され、より実用的な製造手段として広がっていくでしょう。
1-1. 高まるシリコン部品の3Dプリント需要
例えば医療分野では、患者ごとに形状が異なるマウスピースや補助具などを短期間で製作でき、滅菌耐性や生体適合性を備えたシリコン材料の特性が活かされています。自動車分野では、耐熱ガスケットやシール部品の試作・小ロット生産において、開発サイクルの短縮に直結します。さらに、コンシューマ製品では柔軟性と耐久性を兼ね備えた試作品を素早く確認できるため、開発初期の検証に有効です。
こうしたニーズの高まりを受け、シリコンを活用できる3Dプリント技術は今後さらに注目されていくと考えられます。
1-2. 従来の製造法(金型)との違い
従来のシリコン部品の製造は、主に射出成形や圧縮成形といった金型を用いる方法が主流でした。この方法は、同一形状のものを大量生産する場合にはコスト効率が良い一方で、金型の設計・製作に数週間から数ヶ月の時間と、数百万円以上の高額な初期費用がかかるという課題がありました。そのため、設計変更のたびに金型修正や再製作が必要となり、開発のリードタイムやコストを圧迫する要因となっていました。3Dプリンターは、この「金型」という制約から解放される点で、製造プロセスに革命をもたらします。
従来のシリコン部品製造は、射出成形や圧縮成形に用いる金型が前提でした。金型は大量生産において高い効率を発揮しますが、初期投資が大きく、製作にも時間がかかるため、試作や少量生産には不向きです。また、一度金型を作ってしまうと設計変更が難しいという制約もあります。
一方、3Dプリントでは金型を用いずに直接造形できるため、初期費用を抑えつつ短期間で試作品を得られます。さらに、従来の成形では困難な複雑形状や一体化した構造も造形可能で、設計自由度が大きく向上します。この特長は、複雑形状の部品製作 や 部品点数削減 といった設計改善にも直結します。
つまり、金型=量産向け、3Dプリント=試作・小ロット向けと位置づけるのが分かりやすく、それぞれの強みを理解して使い分けることが重要です。
| 項目 | 3Dプリンター | 従来の金型製造 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 低い (金型不要) | 高い (金型製作費が数十~数百万円) |
| リードタイム | 短い (数時間~数日) | 長い (数週間~数ヶ月) |
| 設計の自由度 | 高い (複雑形状や一体構造も可能) | 中程度 (金型の制約あり) |
| 最適な生産量 | 少量~中量、カスタム品 | 大量生産に最適 |
| 設計変更の柔軟性 | 非常に高い (即時修正可能) | 低い (金型修正に費用・時間がかかる) |
| 単価 | 高め (数量が増えても下がりにくい) | 低め (量産でコストダウン可能) |
| 材料選択肢 | 限定的 (対応樹脂種がまだ少ない) | 広範囲 (ほとんどの成形用樹脂に対応) |
2. 3Dプリンターでシリコンを造形する3つの方法

3Dプリンターを用いてシリコンやそれに類する特性を持つ部品を製作するには、大きく分けて3つのアプローチが存在します。それぞれに特徴があり、目的や予算に応じて最適な方法を選択することが重要です。
方法1:シリコンを直接3Dプリントする
最も直接的な方法が、シリコン材料そのものを積層して造形するアプローチです。専用の3Dプリンターが必要となりますが、100%純粋なシリコンで部品を製作できるため、最終製品と同等の物性評価や、実製品としての利用が可能です。後述するLAM方式などがこの方法にあたり、近年技術開発が最も進んでいる分野です。
方法2:3Dプリンターで作成した型にシリコンを流す
これは間接的なアプローチで、まずSLA(光造形)方式などの高精細な3Dプリンターで製品の「型」を製作します。そして、その3Dプリントされた型に、液状のシリコンを流し込み、硬化させることでシリコン部品を得ます。
この方法は、シリコンを直接プリントする専用機がなくても、既存の3Dプリンターを活用できる点がメリットです。小ロットの繰り返し生産にも向いていますが、型の設計やシリコンの注入プロセスに若干の手間がかかります。
方法3:シリコンライクな代替材料で造形する
シリコンそのものではなく、「シリコンライク」な特性を持つ材料を用いて造形する方法もあります。代表的なのは、FDM/FFF(熱溶解積層)方式で使用できる TPU(熱可塑性ポリウレタン)や TPE(熱可塑性エラストマー)フィラメント 、そしてSLA/DLP(光造形)方式で使える フレキシブルレジン です。
これらはゴムのような弾性と柔軟性を持ち、試作品の感触確認や柔らかい部品の簡易製作に広く活用されています。
この方法のメリットは、専用機を必要とせず、一般的な3Dプリンターで安価に導入できることです。一方で、純粋なシリコンと比べると耐熱性・耐候性・薬品耐性は劣るため、最終製品としての使用には限界があります。
とはいえ、プロトタイピングや教育現場での活用、シール材やクッション材の試作といった場面では非常に有効な選択肢となります。「手軽にシリコンに近い特性を確認できる」という点で、多くのユーザーにとって実用性の高い方法です。
3. シリコンを直接造形する3Dプリンターの方式
純粋なシリコンを直接3Dプリントする技術は、現在主に2つの方式が実用化されています。いずれも、熱で溶融しない・高い粘性を持つといったシリコン特有の性質に対応するために開発された独自のアプローチです。代表的なのが、押し出しベースの LAM(Liquid Additive Manufacturing)方式 と、光造形を応用した Pure Silicone Technology™ です。以下でそれぞれの仕組みと特徴を解説します。
3-1. LAM(液体積層造形)方式
LAM(Liquid Additive Manufacturing)方式は、2種類の液状シリコンゴムをプリントヘッドで混合し、押し出しながら積層していく技術です。熱をかけて硬化させることで、金型成形品と同等の高い物性を持つ造形物が得られます。
ドイツのInnovatiQ社が開発した技術が代表例で、高精度かつ複雑な形状の部品製作に適しています。一方で、造形速度は比較的遅く、専用装置が必要となるため導入コストが高い点は課題です。主に医療機器部品や自動車用シール材など、高付加価値分野で活用が始まっています。
3-2. Pure Silicone Technology™(SLA方式)
Formlabs社が開発した Pure Silicone Technology™ は、SLA(光造形)方式を応用した技術です。専用カートリッジから供給される純粋なシリコン材料を光で硬化させて積層し、従来は数千万円規模だったシリコン3Dプリンターを、より手頃な価格帯で利用可能にした点が特徴です。
造形された部品はショアA硬度40Aの柔軟性と230%の破断伸びを持ち、さらにSLAならではの滑らかな表面品質を備えています。これにより、医療用の柔軟パーツやウェアラブル製品、試作段階での物性検証に幅広く利用できるようになりました。
4. 3Dプリンターでシリコンを造形するメリット

3Dプリンターを活用してシリコン部品を製造することには、従来の金型製造では得られなかった多くの利点があります。特に、設計の自由度、開発スピード、初期コスト、パーソナライズ対応といった観点で大きな強みを発揮します。これらのメリットは、製品開発の効率と品質を飛躍的に高める可能性を秘めています。
4-1. 複雑な形状の部品を一体で造形できる
金型製造では、金型から製品を取り出す「離型」を考慮する必要があるため、アンダーカットや内部に空洞を持つような複雑な形状の設計には大きな制約がありました。しかし、3Dプリンターは材料を一層ずつ積み上げていくため、そのような制約がなく、内部に格子状のラティス構造を持つ部品や、複数のパーツを一体化した部品など、極めて自由度の高い設計をそのまま形にすることができます。これにより、自動車部品の軽量化設計や医療用モデルの精密再現など、従来の製造法では難しかった高付加価値設計が実現できます。
4-2. 開発リードタイムを大幅に短縮できる
金型の設計から製作までには通常、数週間から数ヶ月という長い時間が必要です。一方、3Dプリンターなら3D CADデータさえあれば、数時間から数日で実物の部品を手に入れることができます。これにより、設計の検証や機能テストを迅速に繰り返し行うことが可能となり、製品開発のサイクルを劇的に短縮できます。ある企業では、従来3週間以上かかっていた試作品の製作を、わずか8時間に短縮した事例も報告されています。
4-3. 金型が不要で初期コストを削減できる
金型製作には形状の複雑さによって数百万円以上の高額な初期投資が必要です。これは特に、生産数の少ない製品や、開発段階で設計変更が頻繁に発生する試作品にとっては大きな負担となります。3Dプリンターは金型を必要としないため、初期コストをゼロにできるだけでなく、設計変更を即座に反映できる柔軟性を備えています。そのため、1個からの製作でもコスト効率を確保でき、開発段階での試作や少量生産に非常に適しています。
4-4. パーソナライズされた製品の製造に対応できる
医療分野における手術用の臓器モデルや、個人の体にフィットさせる補聴器、ウェアラブルデバイスなど、一人ひとりに合わせて形状を最適化する「マス・カスタマイゼーション」の需要が高まっています。3Dプリンターは、個別の3Dデータを元にそれぞれ異なる形状の製品を造形することが得意であり、シリコンの柔軟性と組み合わせることで、マウスピースや体表面に密着する部品といったパーソナライズ製品に最適なソリューションとなります。
5. 3Dプリンターでシリコンを造形するデメリットと注意点
多くのメリットがある一方で、3Dプリンターによるシリコン造形にはいくつかのデメリットや注意点も存在します。導入コスト、材料の制約、造形速度や仕上がり精度の課題を理解した上で、自社の目的と照らし合わせることが重要です。
5-1. 対応する3Dプリンターが高額である
シリコンを直接造形できる3Dプリンターは、一般的な樹脂用プリンターと比較すると依然として高価です。技術革新により価格は下がりつつありますが、本格的な業務用機種を導入するには数百万円から一千万円以上の投資が必要になる場合があります。そのため、試作・少量生産にどれだけ活用できるか、外注との比較でコストメリットがあるかといった投資対効果を慎重に見極めることが欠かせません。
5-2. 材料の選択肢が限られる場合がある
シリコンと一口に言っても、硬度、色、耐薬品性、耐候性など用途に応じたさまざまなグレードが存在します。しかし現状、3Dプリンターで利用できるシリコン材料はプリンターメーカーが提供する専用材料に限られることが多く、金型成形で使える全てのグレードに対応できるわけではありません。 このため、「既存製品と同じグレードのシリコンでなければならない」ケースでは、3Dプリントでは対応が難しい場合があります。用途に必要な特性が確保できるかどうか、事前の確認が不可欠です。
5-3. 造形速度や仕上がりの課題
3Dプリンターによるシリコン造形は、従来の金型成形に比べて造形速度が遅いのが課題です。1つの部品を積層するのに数時間から十数時間かかることもあり、大量生産には不向きです。また、積層痕や表面の粗さが残る場合があり、気密性や外観品質が重要な用途では後加工(研磨、コーティングなど)が必要になることもあります。さらに、大型部品を一体で造形する場合には、反りや硬化不良といったトラブルが生じるリスクもあります。
こうした点から、短納期の試作や小ロット用途には適していても、量産や意匠品質を重視する製品では従来の成形法の方が有利なケースが少なくありません。
6. シリコンの3Dプリント活用事例
シリコンの3Dプリント技術は、柔軟性や生体適合性、耐熱性といった特性を活かし、様々な産業分野で新しい価値を生み出しています。以下では、医療・自動車・コンシューマ製品といった代表的な事例を紹介します。
【医療分野】患者専用の医療機器や臓器モデル
患者一人ひとりのCTやMRIデータから作成した3Dモデルを元に、手術のシミュレーションに使用する実物大の臓器モデルをシリコンで造形する活用が進んでいます。 また、患者ごとにカスタマイズされたペッサリー(医療機器)や義肢装具など、体に直接触れる器具の製作にも応用されています。生体適合性のあるシリコンを使用することで、より安全で効果的な治療やリハビリテーションに貢献しています。
【自動車産業】カスタムガスケットやシールの試作
自動車のアフターマーケット部品メーカーでは、新製品の圧力試験に必要なカスタムガスケットをシリコンで3Dプリントしています。従来は金属製のダイを使って手作業で切り出していましたが、3Dプリントに置き換えることで、数百種類にも及ぶ部品テストのリードタイムとコストを大幅に削減することに成功しました。また、EVや次世代車両の開発では、新素材や新設計の試作が頻繁に求められるため、シリコン3Dプリントによる柔軟な対応が注目されています。
【コンシューマ製品】ウェアラブルデバイスの部品
スマートウォッチのバンドやイヤホンのイヤーピースなど、身体に装着するウェアラブルデバイスの試作開発にもシリコン3Dプリントが活用されています。様々なデザインやサイズの試作品を迅速に製作し、装着感や機能性を評価することで、製品開発のスピードを向上させています。
7. シリコン対応3Dプリンターの選び方
シリコン対応の3Dプリンターを導入する際には、いくつかの重要な比較ポイントがあります。研究開発向けか、最終製品向けか、あるいは試作中心かによって最適な機種は異なります。 自社の用途と予算に合った最適な一台を選ぶために、以下の点を検討しましょう。
7-1. 造形方式で選ぶ
まずは、どの造形方式が自社に適しているかを明確にすることが重要です。純粋なシリコンを直接造形できる方式(LAM方式やSLA方式)は、最終製品としての利用や物性評価が目的の場合に適しています。一方、TPUやTPEといったシリコンライク材料を使える一般的なFDM/FFF方式やSLA方式であれば、形状確認や短期試作には十分対応可能です。 導入目的が「製品化」なのか「試作・研究」なのかを整理することで、不要な過剰投資を避けられます。
7-2. 本体価格とランニングコストで選ぶ
次に、導入コストとランニングコストの総額を検討する必要があります。シリコン対応のプリンター本体は高額な投資となる場合が多く、さらに材料はメーカー専用品であるケースが一般的です。材料費や消耗部品の交換費用は方式やメーカーによって大きく異なるため、年間コストを試算したうえで投資計画を立てることが重要です。
特に産業用クラスの場合は、年間の保守契約費用も無視できません。定期点検やトラブル対応を含む保守費用は数十万〜数百万円に及ぶ場合があり、これを含めた総所有コスト(TCO)で比較検討することが欠かせません。
7-3. サポート体制で選ぶ
産業用の3Dプリンターは精密機械であり、安定して稼働させるためにはメーカーや販売代理店のサポートが不可欠です。導入時のトレーニング、トラブル発生時の対応、定期的なメンテナンスなど、購入後のサポート体制が充実しているかどうかを確認しましょう。国内に拠点があり、迅速な対応が期待できるかも重要な選定基準となります。
8. まとめ
3Dプリンターによるシリコン造形技術は、製品開発と製造のあり方を大きく変えるポテンシャルを秘めています。金型不要によるコスト削減とリードタイム短縮、そして設計の自由度の向上は、あらゆる産業に革新をもたらします。
アプローチとしては、純シリコンを直接造形する方式、3Dプリント型を使った注型、シリコンライク材料を活用する方式の3つがあり、目的や予算に応じて最適な手法を選ぶことが重要です。
まだ発展途上の技術ではありますが、対応可能な材料や装置は年々拡充しています。医療用の認証材料やEV向け部品への応用など、実用化の幅はさらに広がるでしょう。まずは試作や限定的な用途から導入し、自社の課題解決や新製品開発に結びつけることが、競争の激しい市場で優位性を築く鍵となります。

「シリコン造形をどう活用できるか知りたい」「まずは代替材料で試作したい」といったご要望は、[お問い合わせページ]よりお気軽にご相談ください。現実的な製造手段や試作の進め方をご案内します。



