3Dプリンターで出力したままの造形物に、どこか物足りなさを感じていませんか。せっかく時間と手間をかけて作ったものだからこそ、もっと見栄えを良くしたい、既製品のようなクオリティに近づけたいと思うのは当然のことです。その解決策が「塗装」です。塗装と聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、正しい手順と少しのコツさえ掴めば、初心者の方でも驚くほど綺麗な仕上がりを実現できます。本記事では、3Dプリント品の塗装に必要な道具から、下地処理、具体的な塗装方法、そして失敗しないためのポイントまで、分かりやすく解説していきます。

1. なぜ3Dプリント造形物に塗装が必要なのか?

3Dプリンターで出力しただけの状態でも形にはなっていますが、塗装を施すことで、単に色を付ける以上の多くのメリットが得られます。見た目の向上はもちろん、造形物を保護する役割も果たします。

ラピッドプロトタイピングとは?– 3Dプリンターを活用した試作の基本と導入戦略 –

3Dプリントの塗装は、ラピッドプロトタイピング(RP)における意匠確認や外観評価にも欠かせない後処理です。試作段階で製品の完成度を高めたい方は、RP全体の流れや考え方をこちらの記事でご確認ください。

ラピッドプロトタイピングとは?– 3Dプリンターを活用した試作の基本と導入戦略 –
https://www.kuwabara-3d.com/column/c012/

1-1. 見た目のクオリティを格段に向上させる

塗装の最も大きな目的は、見た目の質感を向上させることです。 3Dプリント特有の積層痕やサポート材を除去した跡は、そのままだとチープな印象を与えてしまいます。やすりがけなどの下地処理を行った上で塗装をすることで、表面が滑らかになり、光沢やマットなど、狙い通りの質感を表現できます。複数の色を使えば、より複雑でリアルな外観に仕上げることも可能です。

1-2. 耐久性や耐候性を高める保護効果

塗料の膜は、造形物の表面を保護するコーティングの役割も果たします。特にPLA素材は紫外線に弱いという性質がありますが、塗装によって紫外線による劣化を防ぎ、長期間にわたって造形物の品質を保つことができます。また、湿気や汚れからも守ってくれるため、造形物の耐久性向上に繋がります。

1-3. 複数のパーツを一体化させ質感を統一する

大きな造形物や複雑な形状のものは、複数のパーツに分割して出力し、後から接着することがあります。その際、接着しただけでは継ぎ目が目立ってしまいます。 塗装前にパテなどで継ぎ目を消し、全体を同じ色で塗装することで、まるで最初から一つのパーツであったかのような自然な仕上がりになります。

2. 3Dプリント塗装の前に!揃えておきたい基本の道具

塗装を始める前に、必要な道具を準備しましょう。プラモデル用の道具がそのまま使えることが多いですが、3Dプリント品ならではの処理に必要なものもあります。

塗装前に揃えておきたい基本の道具一覧

2-1. 表面処理のための道具

美しい塗装は、丁寧な表面処理から始まります。サポート材を綺麗に取り除くためのニッパーやデザインナイフ、そして3Dプリント塗装の肝となる積層痕を消すための各種ヤスリは必須です。紙ヤスリは#400→#600→#1000のように、目の粗いものから細かいものへと順に使っていくと効率的に表面を滑らかにできます。ヤスリがけで消えない深い傷や凹みは、パテを使って埋めましょう。

2-2. 塗装に使用する道具

下地として塗料の密着性を高めるサーフェイサー、色を付けるための塗料、そして最後に塗装面を保護するトップコートが基本セットです。塗料には、ラッカー系、水性アクリル系など様々な種類がありますが、初心者の方は扱いやすい缶スプレーから始めるのがおすすめです。

2-3. あると作業が捗る便利グッズ

塗装する際にパーツを手で持つと、指紋が付いたり均一に塗れなかったりします。持ち手(クリップに竹串を付けたものなど)でパーツを固定し、それを段ボールなどに刺して作った塗装ベースを使うと、作業効率が格段に上がります。また、塗料の有機溶剤は人体に有害なため、防毒マスクや手袋は必ず着用し、換気を十分に行った環境で作業してください。

3. 初心者でも失敗しない!3Dプリント塗装の基本5ステップ

説明中イメージ

道具が揃ったら、いよいよ塗装作業に入ります。焦らず、各ステップを丁寧に行うことが成功への近道です。ここでは、基本的な一連の流れを5つのステップに分けて解説します。

手順1. サポート材の除去と積層痕の処理

まずは、ニッパーやデザインナイフを使って、造形物に付いているサポート材を丁寧に取り除きます。その後、表面に残る積層痕やサポート材の跡を消すために、ヤスリがけを行います。この工程は塗装の仕上がりを大きく左右する最も重要な作業です。最初は粗い番手(#400程度)のヤスリで全体の凹凸をならし、次に細かい番手(#600~#1000程度)で表面を滑らかに整えていきます。

手順2. パーツの洗浄と乾燥

ヤスリがけで出た削りカスや、手に付いていた油分が表面に残っていると、塗料が弾かれたり、後から剥がれたりする原因になります。 中性洗剤と歯ブラシなどを使ってパーツを優しく洗浄し、ホコリや油分をしっかりと洗い流しましょう。洗浄後は、水気をよく拭き取り、内部まで完全に乾燥させます。

手順3. 塗料の密着性を高める下地処理

塗装の仕上がりを左右する重要な工程が、サーフェイサー(プライマー)による下地作りです。 サーフェイサーには、本塗装の発色を良くする、塗料の食いつきを高める、ヤスリがけで見逃した細かい傷を見つけやすくするといった効果があります。パーツから20~30cmほど離して、薄く均一に吹き付けるのがコツです。一度で厚塗りしようとせず、数回に分けて重ね塗りしましょう。

手順4. メインとなる本塗装

下地が完全に乾いたら、いよいよ本塗装です。缶スプレー・筆塗り・エアブラシなど、使いたい道具で色を塗っていきます。ここでも、一度に厚塗りせず、薄く塗り重ねるのが基本です。薄く塗っては乾燥させ、また薄く塗る、という作業を繰り返すことで、ムラのない綺麗な塗装面になります。

手順5. 塗装面を保護するトップコート

本塗装が完了し、十分に乾燥したら、最後の仕上げにトップコートを吹き付けます。トップコートは、塗膜を衝撃や摩擦から保護し、塗料の剥がれを防ぐ役割があります。また、「光沢」「半光沢」「つや消し(マット)」といった種類があり、造形物の質感を最終的に決定づける重要な工程です。

4. 塗装方法ごとのメリット・デメリットと作業のコツ

3Dプリント品の塗装には、主に「缶スプレー」「筆塗り」「エアブラシ」の3つの方法があります。それぞれに特徴があるため、作りたいものやスキルに合わせて最適な方法を選びましょう。

塗装方法ごとのメリット・デメリット

4-1. 缶スプレー塗装:手軽で均一な仕上がり

最も手軽に始められるのが缶スプレー塗装です。広い面をムラなく均一に塗るのに適しており、初心者の方におすすめです。使用前によく缶を振り、塗装面から20~30cm離して平行に動かしながら吹き付けます。「シューッ」と長く吹き付けるのではなく、「シュッ、シュッ」と断続的に、少しずつ色を乗せていくイメージで作業すると失敗が少なくなります。

4-2. 筆塗り塗装:細部の表現や修正に最適

キャラクターの目や服の模様など、細かい部分の塗り分けには筆塗りが欠かせません。塗料を混ぜて自分で色を作れるのも大きなメリットです。筆ムラを防ぐには、塗料を専用の薄め液で適切な濃度に薄めることが重要です。また、一度に厚く塗ろうとせず、乾燥させながら何度も塗り重ねることで、綺麗な仕上がりになります。

4-3. エアブラシ塗装:本格的で美しいグラデーションを実現

コンプレッサーで圧縮した空気と塗料を混ぜて吹き付けるエアブラシは、プロのような滑らかで美しい塗装面を作ることができます。 塗料の噴出量を細かく調整できるため、繊細なグラデーション塗装も可能です。機材の導入コストはかかりますが、本格的に塗装を楽しみたいのであれば、挑戦する価値は十分にあります。

5. 【素材別】3Dプリント塗装で注意すべきポイント

3Dプリンターで使われる素材(フィラメントやレジン)には様々な種類があり、それぞれ性質が異なります。素材の特性を理解しておくことで、塗装の失敗を防ぐことができます。

3Dプリンターで使える多様な素材の選び方

使用する素材によって塗装のしやすさや注意点が異なります。各素材の特徴や選び方については、こちらの記事をご覧ください。

3Dプリンターで使える多様な素材の選び方
https://www.kuwabara-3d.com/column/c001/

5-1. PLA素材の塗装における注意点

最も一般的な素材であるPLAは、比較的塗装しやすいですが、熱に弱いという特徴があります。そのため、乾燥時にヒートガンなどで高温を加えすぎると変形してしまう恐れがあります。常温でじっくりと自然乾燥させるのが基本です。

5-2. ABS素材の塗装における注意点

ABSはPLAよりも強度があり、ヤスリがけなどの加工がしやすい素材です。アセトン蒸気で表面を溶かして滑らかにする「アセトン処理」も可能ですが、やりすぎるとディテールが潰れてしまうので注意が必要です。また、アセトンは引火性が高く、蒸気も有害なため、換気の良い場所で火気を避けて取り扱う必要があります。塗装自体は各種塗料に対応できますが、溶剤系の塗料に弱い場合があるため、目立たない部分でテストしてから本塗装に移ると安心です。

5-3. UVレジン(光造形)素材の塗装における注意点

光造形方式で使われるレジンは、FDM/FFF方式に比べて積層痕が少なく、滑らかな表面が特徴です。 しかし、造形後の未硬化レジンをしっかりと洗浄・二次硬化させないと、塗料がうまく乗らないことがあります。IPA(イソプロピルアルコール)などで念入りに洗浄し、UVライトで十分に硬化させてから塗装工程に入りましょう。

6. よくある失敗例から学ぶ!3Dプリント塗装のトラブル解決策

教えるイメージ

丁寧に作業したつもりでも、思わぬ失敗をしてしまうことがあります。ここでは、よくある失敗例とその原因、対策を解説します。

6-1. 塗料がうまく乗らない・剥がれてしまう

原因として最も多いのが、洗浄不足による油分や削りカスの残存です。また、下地となるサーフェイサーを省略してしまうと、塗料の密着性が著しく低下します。対策としては、塗装前の洗浄と脱脂を徹底し、必ずサーフェイサーを吹くことが重要です。

6-2. 塗装面にムラができてしまう

一度に塗料を厚く塗ろうとすると、液だれが起きたり、乾燥後にムラになったりします。特にスプレー塗装の場合は、対象物との距離が近すぎたり、同じ場所に吹き付け続けたりすることが原因です。薄く何度も重ね塗りするという基本を徹底することが、ムラを防ぐ一番の対策です。

6-3. 頑張って処理したはずの積層痕が浮き出てくる

ヤスリがけが不十分なまま塗装を進めると、塗装したことでかえって積層痕が目立ってしまうことがあります。特に光沢仕上げの場合は顕著です。対策は、サーフェイサーを吹いた段階で一度表面の状態をチェックすることです。サーフェイサーは傷を発見しやすくする効果もあるため、この時点で積層痕が残っていれば、再度ヤスリがけに戻って修正します。

こうした失敗を防ぐには、各工程を省略せず、丁寧に作業することが何より重要です。

7. まとめ

3Dプリント造形物の塗装は、少しの手間と知識で、作品の完成度を劇的に向上させることができる非常に効果的な後加工です。本記事で紹介した「下地処理」「基本塗装」「トップコート」という一連の流れを丁寧に行うことで、初心者の方でも見違えるような仕上がりを実現できます。

また、塗装は見た目を整えるだけでなく、必要に応じて部品の外観を再現したい場合にも活用されます。こうしたケースでは、3Dスキャンからモデリング・造形・塗装までを通じた「リバースエンジニアリング」という手法が有効です。
(※すべてのケースで塗装を伴うわけではありませんが、特に外装部品や意匠性が求められる用途では、塗装による再現も有効な手段となります。)

【徹底解説】リバースエンジニアリングとは?基礎知識と3Dプリント活用法

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