2025.6.25
Geomagic Design Xとは?3Dスキャンから3Dモデルへ|リバースエンジニアリング活用術【社内事例あり】
3Dスキャンデータを活用した設計・製造のデジタル化が加速する中、スキャン結果を設計現場で活かすための高度なデータ処理ツールが求められています。Geomagic Design Xは、こうしたニーズに応えるリバースエンジニアリング専用ソフトで、スキャンから設計データ化までのプロセスを効率化します。
本記事では、Design Xの機能的特長とその導入メリットを整理し、弊社での具体的な活用事例とともに、実務でどう活かせるかを詳しく解説します。
目次
1. Geomagic Design Xの概要と特徴
図面の残っていない部品や既製品では代替できない複雑形状の再設計において、スキャンデータの活用は極めて有効です。しかし、点群やメッシュといったスキャンデータはそのままでは設計に活かしづらく、加工には高度な処理技術が求められます。
Geomagic Design Xはこうした課題に対し、スキャンデータから正確なCADモデルを生成することに特化した、リバースエンジニアリング専用のソフトウェアです。本章では、Design Xが提供する機能や対応分野、導入によって得られるメリットを体系的に紹介します。
1-1. Geomagic Design Xとは?
Design Xは、製造現場で取得したスキャンデータをベースに、設計・再現・評価までを高精度かつ効率的に行うために設計されたソフトウェアです。特に、図面のない古い部品の再設計、摩耗した金型の再現、製造終了品の再モデリングといった場面で、多くの実績があります。
一般的なCADでは扱いが難しい点群やメッシュデータも、Design Xであれば自動補正からフィーチャー抽出、パラメトリックモデリングまで一貫して対応可能です。既存のCAD環境とも高い親和性を持ち、設計ワークフローの中で無理なく活用できます。
1-2. 主要な機能一覧
Design Xは、単なる「スキャンデータの変換ツール」ではありません。リバースエンジニアリングに必要な処理を効率的かつ正確にこなすための多機能な統合環境を備えています。
- スキャンデータの自動・半自動メッシュ修正
点群から生成されたメッシュに対して、穴埋めやノイズ除去、スムージングなどのクリーンアップ処理が可能。自動化機能も備えており、作業時間の短縮にも役立ちます。 - サーフェスおよびモデリング機能
メッシュを基に、自由曲面(NURBS)や解析可能なソリッドモデルを構築。曲面形状とプリズム形状(柱状体)の両方に対応し、実物の形状を正確に再現します。 - ヒストリーベース(履歴付き)CADモデルの生成
通常のCADと同様に、押し出しや回転などのフィーチャーを履歴として管理可能。設計変更や再利用に強く、CAD設計プロセスへ違和感なく統合できます。 - 主要CADソフトとのシームレスな連携機能
SolidWorks、PTC Creo、Siemens NXなどと連携し、生成したモデルをフィーチャー構造付きで移行可能。LiveTransfer機能により、モデルと設計履歴をそのまま転送できます。 - 幾何公差・形状解析ツールによる品質保証対応
スキャンしたデータと設計モデルを比較し、偏差を視覚化。製品の寸法検証やリバース設計の精度確認に活用されます。
これらの機能をすべて1つのソフトウェア内で完結できるため、設計からモデリングまでの工程を効率的に進めることができます。生成されたモデルはフィーチャー単位で再編集が可能であり、他のCADソフトとも高い互換性を持つため、既存の設計業務にそのまま統合できます。Design Xは、単なる変換ツールではなく、CADの延長線上で使える実用的な設計プラットフォームとして機能します。
1-3. 3Dスキャンデータの処理能力
数百万~数千万ポリゴンにも及ぶ大規模なスキャンデータをスムーズに処理できる高速かつ安定した処理性能を備えています。特に以下の処理機能は、現場の作業効率に大きく貢献します。
- 大容量メッシュのリアルタイム操作
軽快な表示性能により、回転やズーム、断面表示などの操作がストレスなく行えます。 - 自動的な穴埋め・エッジスムージング
欠損箇所やガタついたエッジも自動補完され、後工程のサーフェス化を滑らかにします。 - リファレンスジオメトリの抽出精度
円筒、平面、球などの基本形状をスキャンデータから高精度に認識・再構築。これにより、幾何学的に整ったモデルの作成が可能になります。
精密部品や曲面形状を扱う場面でも、精度・再現性・操作性のいずれも高い評価を得ています。
1-4. 産業での活用場面
Design Xは、多様な業界で活用されています。以下はその代表的な用途です。
- 製造業
破損した金型の復元や、図面のない古い部品の再製造、量産終了部品の在庫レス対応など、設備保全や部品再設計の領域で活用されています。 - 医療分野
CTスキャンから得られる患者ごとの骨格データを活用し、オーダーメイドの義肢・補綴物の設計に貢献しています。個体差に応じた最適な設計が可能です。 - 文化財分野
現地で取得したスキャンデータをもとに、部材や形状をCAD化・復元するプロセスにDesign Xが活用されています。文化財のデジタル保存や修復設計を支援しています。 - 製品開発・設計部門
競合製品の形状分析や設計比較、意匠面の再利用など、ベンチマーキングツールとしても活用されています。また、形状の再設計や派生製品の開発支援にも役立っています。
これらの用途は、単なる3Dモデリングではなく「既存資産の再利用」「製造現場の知見の継承」といった視点でも注目されています。
1-5. データ制作サービス活用のご提案
Design Xは、メッシュ修正から履歴付きCADモデルの生成まで高度な機能を備えた強力なツールである一方、導入コストが比較的高額なソフトウェアでもあります。そのため、自社での導入に踏み切る前に、まずは外部にスキャンやモデリング業務を委託するという選択肢も有効です。
弊社では、本ソフトを導入・運用しており、スキャンからモデリングまでの工程を社内で一貫して対応できる体制を整えています。必要に応じて、Design Xを活用したリバースエンジニアリング業務の受託にも対応しておりますので、まずは設計精度の向上や業務効率化をお考えの場面で、次章にてご紹介する弊社事例をご参考にしていただければ幸いです。

Design Xを活用したリバースエンジニアリングを含む、弊社サービスの詳細はこちら。
https://www.kuwabara-3d.com/service/
2. Geomagic Design Xの導入事例
弊社での実際の活用事例をご紹介します。用途や対象物の違いによって、どのようにDesign Xが機能したかをご覧ください。
2-1. スポーツ用具開発におけるスキャンデータの活用

チェアカーリング用のデリバリーヘッド(車椅子カーリング選手がカーリングストーンを押し出すための補助器具)を開発するにあたり、ストーンの取手部分を3Dスキャナーで計測しました(①)。取得したスキャンデータに対しては、Design Xの自動分割機能を用いて、細かな形状や面の構成を視覚的に確認(②)したうえで、ストーンの棒状部分の中心軸を基準に軸合わせを実施。さらに、ハンドル部全体に自動サーフェス機能を適用し、スムーズなソリッドモデル化を行いました(③)。このモデルを基準としてデリバリーヘッドを設計することで、密着度の高い形状を実現。完成モデルをもとに、装着状態をモニター上で立体的に再現し、干渉の有無やフィッティング精度を事前に確認しています(④)。
こうした設計プロセスにより、ホールド時の装着性と操作時の安定性を両立した構造が実現されました。
2-2. 3Dスキャンで実現した高圧洗浄機と別ブランドノズルの組み合わせ設計

異なるメーカーの高圧洗浄機と先端ノズルを接続したいという要望に対応するため、専用のアダプター部品を製作しました。これは、純正構成のままでは機械と機械の狭い隙間等にノズルがうまく入り込まず、狙った箇所に的確に放水できないため、清掃作業に時間がかかるという課題を解消することが目的でした。
現物の接続部を3Dスキャナーで計測し、Design Xを用いて寸法や形状を正確に把握し、確実に装着できる設計データを作成しました。作成した接続部品は3Dプリンターで製造し、実機への取り付け後も水漏れ等の問題なく機能することを確認しています。
既製品に存在しない組み合わせや形状に対しても、現物計測から設計・造形まで一貫して対応することで、用途に応じた“必要なものをつくる”対応が可能です。
2-3. 破損した業務用機器のスイッチ部品

飲食店で使用されている業務用機器のスイッチ部品が繰り返し破損するという課題に対応するため、同一機種に搭載されていた正常なスイッチ部品(①)を3Dスキャナーで計測し、Design Xを用いて3Dモデルを作成しました(②)。
複雑な形状や取り付け穴の位置関係も正確に再現されており、必要に応じてこのモデルを左右反転させることで、破損していた反対側の部品の再製作にも対応しました。
こうした小さなパーツの破損が原因で、機器全体の買い替えや不要なアセンブリ単位での部品購入を強いられるケースも多く見られます。本事例のように、必要な部分だけをスキャン・モデル化することで、コストを抑えつつ現場ニーズに合った再製作や再設計が可能になります。
3. まとめ
Geomagic Design Xは、図面のない部品や複雑形状の対象物を、3Dスキャンを起点に高精度なCADデータとして再構築できる、リバースエンジニアリング特化型のソフトウェアです。メッシュ修正からソリッド化、履歴付きCADモデルの生成、他CADとのスムーズな連携まで、設計・製造の現場で求められる機能が一体化されています。
弊社でもDesign Xを導入・運用しており、製品改良、既製品にない部品の再現、別ブランド機器同士の接続など、さまざまな課題に対応してきた実績があります。特に、3Dスキャンから設計・造形までを一貫して対応できる体制は、お客様の個別課題に対して柔軟かつ迅速な提案を可能にします。
「現物しかない」「既製品では対応できない」「設計時間を短縮したい」といった現場のお困りごとに対し、Design Xは強力な選択肢となり得ます。図面の再作成やモデリングデータの生成のみといったご依頼にも対応しておりますので、まずはお気軽にご相談ください。設計業務の効率化や既存資産の再活用の一歩として、弊社サービスをご活用いただければ幸いです。